「母乳育児成功のための10か条」って知っていますか?
私はこれまで、「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」に認定された病院、クリニックで勤務してきました。
そのBFHの認定施設で大事にしているのが、ユニセフとWHOが提言している「母乳育児成功のための10か条」です。
その名の通り、母乳育児に大切なことがぎゅっと詰まった内容です。
この内容だけで1冊の本になっちゃうくらい中身は濃いです!!
本来は全ての産科施設で大切にされてほしい内容なのですが、
母乳育児への取り組みは施設によって大きく異なっている現状です。
母乳育児を望んでいるのに叶わなかったという悔しい思いをする人が減るよう、
1人でも多くの人に、出産前に知っていてほしい内容です。
- 母乳育児成功のための10か条(WHO・ユニセフによる共同声明)
- 母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること
- 全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること
- すべての妊婦に母乳育児の良い点とその方法をよく知らせること
- 母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助すること
- 母親に授乳の指導を十分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても母親の分泌を維持する方法を教えること
- 医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと
- 母子同室にする。赤ちゃんと母親が一日中24時間、一緒にいられるようにすること
- 赤ちゃんが欲しがるときに、欲しがるままの授乳を勧めること
- 母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと
- 母乳育児のための支援グループ作りを援助し、退院する母親に、このようなグループを紹介すること
- おわりに
母乳育児成功のための10か条(WHO・ユニセフによる共同声明)
母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること
産婦人科で勤務しているスタッフはもちろんですが、授乳しながら受診して薬を処方される機会などもあるので、
他の科のスタッフにもぜひ知っていていただきたいですね。
全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること
母乳は体質でしょ?と思われる方もいるかもしれませんが、
体質よりも、母乳分泌を促すための頻回授乳や吸わせ方の方が大事です!!
(体質で出ないという人はごくわずかしかいないと言われています。)
出産してすぐの大事な時期にいかに母乳を軌道に乗せられるかが重要なので、知識のあるスタッフの関わりが大切になります。
すべての妊婦に母乳育児の良い点とその方法をよく知らせること
母乳はいいところがたくさんあります!
語り出すと長くなるのですが、子どもにも母親自身にもそれぞれメリットがあります。
子どもには、母乳の免疫によって病気にかかりにくくなる、将来の生活習慣病の予防になる…など
母親へは授乳により子宮収縮が促されて産後の回復が良くなる、乳がんなどのリスクが減る、授乳している間は体重が増えにくい…などです。
なにより授乳のスキンシップの時間が親子の安心できるふれあいの時間になり、お互い気持ちが落ち着きます。
最近は夫のサポートを受けるためにミルク、という話も聞きますが、
母乳は作る手間もなく、軌道に乗ればとても楽です。
母乳のメリットも考えると、授乳を代わってもらうより、授乳以外の全ての家事育児をサポートしてもらう方がいいのかなと個人的には思います。
母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助すること
これは産科施設の対応によってできるかどうかが変わってくるところだと思います。
出産後はママや赤ちゃんの処置もあるので、30分以内に授乳まで辿り着くのは結構大変です。
出産してすぐ赤ちゃんを胸に抱き…
泣いていた赤ちゃんがママの胸で落ち着き…
少し経つと、おっぱいを探して一生懸命首を動かしたり口をぱくぱくさせたりします。
その赤ちゃんのタイミングで初めての授乳ができるのが理想です。
私の働いていたクリニックでは、帝王切開でも母子の状態がよければカンガルーケアと授乳を実施していました。
母親に授乳の指導を十分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても母親の分泌を維持する方法を教えること
母乳は不思議なもので、吸われる刺激がなくなると「もう作らなくていいんだ」と判断して、
分泌が一気に減ってしまいます。
もし赤ちゃんがNICUに入ったり、入院したりという母子分離になってしまう場合は、
定期的に搾乳をするなどして分泌を継続していく必要があります。
離れている間はお休みして、母乳が欲しいときにすぐ再開!とはなかなかいかないんですね。
赤ちゃんと離れなければならない時、授乳をどうするか、相談できると安心ですね。
医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと
必要がある場合というのは、
- 低出生体重児
- 早産児
- 黄疸(肌が黄色くなること)
- 低血糖
- 出生後の体重の減り幅が大きい(8〜10%以上)
…など、医学的に必要な場合のことです。
逆に言えば、それらに当てはまらなければ母乳のみでいい、ということです。
一律に何日目だからミルク何cc足します、というのではなく、
赤ちゃんの出生体重、体重減少、黄疸の具合、排泄状況、母乳の分泌状況、母親の疲労度などを
総合的に判断して、母乳だけでは足りないとなった時だけミルクを足すのが理想です。
ただ、その判断には専門的な知識が必要になりますし、
ミルクの方が体重がしっかり増えて黄疸にもなりにくいので、
手っ取り早くミルクを勧めてしまうこともあるのかなと感じることもあります。
母乳じゃなくてミルクでもいいじゃん!と母親自身が言うのはいいですが、
周りが(特に産科のスタッフが)そう言うのは、優しさではないと私は思います。
母子同室にする。赤ちゃんと母親が一日中24時間、一緒にいられるようにすること
出産後くらいゆっくり休ませてー!という気持ちもわかるのですが、
産後すぐから赤ちゃんと一緒に過ごすことで授乳のタイミングや育児の方法がわかるので母子同室はすごく大事です。
初めての出産であれば、入院中に育児のこと授乳のことをマスターして帰らなければいけないので、
覚えることが多くて、正直ゆっくり休んでいられないんです。
もし入院中に疲れて預かってもらうなら、授乳と授乳の合間3〜4時間がいいと思います。
産後は頻回授乳を繰り返すことで母乳分泌が増えてくる時期なので、
入院中一晩預かってもらってミルク飲ませて…となると、母乳分泌が増えにくくなってしまいます。
赤ちゃんが欲しがるときに、欲しがるままの授乳を勧めること
少し前までは新生児室で赤ちゃんは預かり、3時間毎の授乳の時間になると行って…
というスタイルだったようですが、
それだと、タイミングが合わずうまく授乳できないことも多かったようです。
赤ちゃんはお腹がすいた時に口をぱくぱくさせたり、
口をつんつんした時に口を開けたり、
「あー」「くー」などの声を出したりするので、
泣いてしまう前に授乳が出来るのが一番うまくいきます!
(タイミングが過ぎて、お腹すいて泣いてしまうと逆に飲めなくなってしまうことも多いです。)
回数や間隔は気にせず、30分でも1時間おきでも、
どんどん飲ませてあげることが大切です!
母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと
おっぱいの吸い方を覚えようとしている時期に、哺乳瓶の乳首やおしゃぶりをくわえると、
「乳頭混乱」と言って、おっぱいの飲み方がわからなくなってしまうことがあります。
出来るだけ哺乳瓶やおしゃぶりは使わないことが理想です。
ミルクや搾母乳の補足が必要な時は、カップなどの選択もあります。
母乳育児のための支援グループ作りを援助し、退院する母親に、このようなグループを紹介すること
入院中の授乳のことは相談できても、1ヶ月健診が終わると、
なかなか授乳のことを相談できる場所は少ないです。
同じように母乳育児をしている人と、話し合ったり相談できたりすると、
気持ち的に、授乳の続けやすさが全然違うと思います。
授乳の相談は、出産した産院や市町村の窓口、助産院などでも出来るので、困った時は相談してみてください。
おわりに
長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました!
母乳のことは知識があるかどうかで、その後軌道に乗るかどうかが大きく変わってしまうこともあります。
(本当はどこで出産しても手厚いサポートが受けられれば理想なんですが…なかなか現状は難しいです。)
「母乳育児成功のための10か条」は基本の内容が詰まっているので、
何を知っておけばいい?と迷っている方は覚えていてもらえると役に立つと思います!
赤ちゃんと楽しく授乳できる人が1人でも増えてくれたら嬉しいなと思っています!
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